●杉の子図書館の方針と運営について


  1.子ども図書館の規模についての私共の考え方
 杉の子図書館の建物や蔵書の規模をどれ位にするかは私共夫婦が最も頭を悩ませたところです。基本的な問題
は次の3点でした。

1-1 開架冊数。
 開架冊数は、5〜6千冊としました。赤ちゃん絵本から中高生向けの本まで、子どもの様々なニーズに応えられ
るように広範に亘るジャンルの本を一通り書架に出すとすれば、5〜6千冊が適当と判断した結果によるもので
す。但し図書館の蔵書そのものは1万3千冊で、その中から入れ替えながら書架に出しています。

1-2 書架の規模。
 6千冊の本を収容できる書架として130段の棚を作り付け、少年文庫コーナー(少年文庫・文庫・新書・B6判
等)と子どもの本の手引き等を纏めたお母さんコーナーを設けました。更に、作り付けの書架とは別に300冊収
容の大型絵本コーナーと200冊入るミニ本ラックを窓際に設置しました。

1-3 建物の規模。
 考え方として、図書館の規模と構造は幼児を主体に検討しました。幼児が幼稚園や保育園に行く感覚で出入り
できる構造・規模であれば、もっと上の年代の子どもにも使え、結果的に全ての子どもが利用できる図書館にな
ります。子ども、特に体の小さい幼児の目にはさほどでもない大きさの施設でも実際以上に大きく映るもので
す。子どもの頃親しんだ建物や事物が本当はこんな程度の大きさだったかしらと感じることは、大人なら誰しも
が思い当たることです。幼い子どもは大きな建物に圧迫感さえ感じるものですし、かえって、狭い、穴蔵のよう
な場所が好きです。6千冊を収容できる書架を持つ子ども図書館は最小どの程度の面積で可能か、実験的にやっ
てみる積りでした。

 杉の子図書館は木造平屋建て12坪で、玄関・図書室・予備室から成っています。予備室は来年、新資料室に改
造の予定です。図書室は倒れる心配のない安全な作りつけの書架、目に穏やかな和風の照明、心和む6畳コー
ナーが特徴で、子どもを連れて初めて来館したお母さん方から「素敵な図書室ですね」と言われています。家庭
的な雰囲気の図書館に子どもたちは満足のようで、ちんけだなどという声は聞かれません。見学に来た大人、特
に小中学校の教師の中に、一瞥して「小さいんですね」と小馬鹿にしたような態度で感想を言う人がいます。子
どもの目の高さで物を見る事を知らないんですね。

 先に実験的にと言ったのは、子ども図書館はこのような小規模の施設で充分に機能を果たせるということを多
くの人に知って貰いたいという願いがあったからです。子ども図書館としての機能を果たせ、かつ小規模で設置
できるということになれば、子どもの生活エリアに一館づつ用意することも予算的に手の届く話になってくる筈
です。 

 2. 開館日と時間帯。
 現代は子どもも親も多忙です。そうした利用者にとって使い勝手の良い図書館でありたく、杉の子図書館は週
5日、日曜日から木曜日の午前8時30分から日暮れ方まで開放することにしました。

 3. 利用者について
3-1 会員制は採らないで、誰でも受け入れることにしています。利用するのに親の同意が必要だとか、登録し
ないと利用できないという方式にはしたくありませんでした。友達同士で誘い合わせて来るケースが多く、そん
な時、区別なく全ての子どもに利用させようという方針からです。 

3-2 年齢による利用者の制限はしない。
 赤ちゃん、幼児、小学生、中学生、高校生及び大人、誰でも利用できます。

 3-3 居住地による制限はつけない。
 当碇ケ関村内の住民だけでなく、村外の人達にも開放しています。利用者の多くは村の人ですが、青森県内で
は大鰐町(隣町)や弘前市、県外では秋田県の大館市(隣接市)や秋田市などからやって来る利用者もいます。
私共としては遠隔地にも利用者がいるのは励みになりますが、彼等の身近に満足出来る子どもの図書施設が無い
のだろうと思うと複雑な気持ちです。

3-4 幼児が一人で来ても利用できる。
 子どもがひとりで本を読めるようになる能力は、10歳位までに培われると言われます。しかし、10歳位までの
子どもが一人でも自由に利用できる子どもの図書施設はほとんど無いのが現実です。私共では就学前の幼児でも
保護者同伴なしで、つまり幼児が一人で来ても受け入れています。館内で本を読む事は勿論、幼児への本の貸し
出しもしています。文字は読めなくとも自分で見る本を的確に選びとっているのを見ると、彼等の能力は大人が
考えている以上のものがあると認識を新たにしています。私共では、本を借りる時には備えつけの貸し出しノー
トに自分で記入するのですが、まだ名前の書けない子どもの場合は貸し出しノートに記入せずとも借りられるこ
とにしています。
 子ども図書館は小さな子どもにこそ開放されねばなりません。低学年の一年生と二年生には本を貸さない小学
校の図書室の話など耳に入ってくると胸が痛くなります。

 4. 図書館だより「杉の子タイムス」
 図書館だよりとして、「杉の子タイムス」を年7回発行し配布しています。概して近頃の人は読む事を億劫が
る傾向があるので、A4用紙1頁に押さえ、内容をあまり詰め込まず、読んで貰えるように工夫しています。発行
の都度、図書館の利用案内と地図を必ず入れます。開設して7年、地域に当館の存在は充分知られているとは思
うものの、利用者である子どもの世代交替があることや、転入者のことを考慮してのことです。年7回発行のう
ち3回は「資料室から」ということにし、資料室の古い子どもの本や子どもの読書に関する参考資料を紹介して
います。これは文庫関係者や保育従事者・学校の教師を対象に考えて編集発行しています。

 5. 原則として無人運営。  
 普段、私共は図書館には努めていないようにしています。子どもや大人が、私共の目を気にしないで本を自由
に選べるようにとの配慮からです。実際、顔見知りになった常連の利用者に訊いてみると、皆さん異口同音に私
共が居ない方が気が楽でゆっくり本を選べて良いと言います。当館の利用者は子どもも大人も本を選ぶのに人を
頼りにしないし、どの本を選ぶか私共に知られたくないという心理もあるのでしょう。開館以来、「面白い本は
?」と訊かれた試しがありません。無人運営といっても、子どもと顔を合わせれば声を掛けます。普段妻は図書
館の前の畑で草取りをしており、来館者があるとそれとなく心配りをしています。例えば、カーテンを締めきっ
ていたりすれば何気なく顔を出したり、帰った後館内をざっと確認します。子どもとの接触があまりないようで
も、子どもの方では私共のことはよく知っているもので、村の中心部で出会えば「あっ、杉の子の人だ。」と声
を掛けて来たり、館内に置いてある折り紙がなくなれば、「折り紙がなくなったんだけど」と私共の居宅の方に
遠慮無く言ってきます。館内に詰めて子どもとべったりしている必要は全くないと実感しています。私共が関わ
るのは図書館の書架に並べるべき本を確かな目で選んでやる所までで、後は子どもたちの自由に任せてよいのだ
と思います。

 6. 開架用の本を選ぶことについて。
 子ども図書館は優れた子どもの本を備えるべき、というのが私共の見解です。子どもの豊かな成長を願うな
ら、子ども図書館の運営に関わる者の判断・見識によって子どもの本は選択されるべきです。これは子どもの読
書の自由の制限には当たりません。図書館にない本をどうしても読みたければ、子どもが自分で買って読むなり
或いは親が買ってやればいいのであって、それらを読む事まで制限している訳ではありません。私自身流行りの
本や漫画を大いに見ましたし、何やら怪し気な本も沢山読みましたが、それらは皆自分で買った本であったり、
友達との回し読みでした。こうした類の本まで図書館に置かせようとしたり、又、子どもにもっと図書館を利用
して貰いたいとの思いで図書館側で用意するのは邪道だろうと私は思います。杉の子図書館では私共が納得して
選んだ本のみを書架に出してあります。

 7. 本の選び方に対する姿勢。
 子どもの本の解説書などに優れた本の条件とか基準が載っている事があります。が、実際にそうしたものを頼
りに本を選ぼうとしても迷いが生じたり、訳が分からなくなってしまうのが落ちです。どの本にも当て嵌まる、
優れた本を見分ける絶対的な条件や基準は無いと考えた方がよいでしょう。ではどうするのか?優れた本として
の評価の定まっている本を読みこなし、自ら本を見る目を養うべく研鑽を積むことです。日本語についてやその
他多岐に亘る素養も必要です。本を選ぶ立場にある者が子どもの本、それも絵本や幼年読み物止まりでは、子ど
もの本の良し悪しを判断するには無理があります。誰にも出来る本の評価のしかたなどという便利なものはあり
ません。

 杉の子図書館の蔵書構成は古典と呼ばれている作品のウエイトが高くなっています。○○さん(註:当冊子編
集人)には、4年前来館された折り「これはクラシック図書館だ。いい本が揃っているが、流行らないだろう
な。」と言われました。(適度に利用されていますのでご安心を)

 新刊書については、出版目録や新聞の書評欄等を見て目に留まったものを県立図書館から借り出し、納得した
もののみ購入します。ここ2、3年科学読み物に魅力的な本が多く、この分野の本は結構購入しています。絵本も
含め児童文学の類の新刊にはめぼしいものが少なく購入はぐんと減りました。どうしても読みたければ、個人的
に買って読んでくださいというところです、更に、現在品切れ・絶版となっている本で、図書館に是非備えたい
というものについては古書店(全国の)を通じて着実に入手するよう努めています。

 8. 本の配列の工夫。
8-1 てのひらサイズのような小さな本はミニ本ラックにまとめてあります。ここだけで赤ちゃん絵本から昔
話、詩の本といったものまで選べるので、まだ図書館での本選びに慣れていない子どもや親たちに大変人気があ
ります。小さいサイズの本にこれだけの利用があるのに、出版点数が少ないのはなんとも残念です。

8-2 大型絵本コーナーとして、カラーボックスサイズの木製の箱を特注し窓際に並べてあります。300冊の大型
絵本は子どもの目を引き付けるようで、小さな子や小学生がコーナーの前に坐り込み、絵本を広げているのをよ
く見掛けます。

8-3 常に書架に出して置く本と、時々入れ替える本があります。並んでいる本に変化がないと飽きられて、子
どもの足はいつしか図書館から遠のくものです。それで、時々書架の本を入れ替えたり、配置替えをしていま
す。こうして変化をつける事で新鮮味が醸され、新刊書を次々購入しては入れる必要もなくなります。

8-4 絵本や幼年読み物、及び科学絵本を書架の下段に、高学年向けの本を上段にと配列、上段にいく程対象年
齢の高い本が並ぶようにしています。見ていると子どもは背伸びするのか単なる興味からか、踏み台に乗って上
段にあるまだまだ歯が立たない本に手を出していることがあります。実際レベルが高すぎる本で結局は投げ出す
のですが、私共から「それは君には無理だ」等とは言いません。将来読むことになるだろう本を小さい時分に手
に取ってみるという経験は大切な事だと考えているからです。

8-5 絵本に限らず特定の本の表紙が見えるように並べて置くことはやりません。開設当初やったことがありま
すが、やはりそれらの本ばかりが借り出されるので良くないと感じ、止めました。周りであれこれお膳立てしな
ければ、子どもは幼い子どもでも自分で書架から幾らでも本を引き出して選ぶものです。こうして子どもは多く
の本を知っていくし、自分の読む本は自分で選ぶ習慣もついてきます。

 9. 本の扱いについて。
 私共では本の手触りとか美観といったものを重視しています。子どもには出版された時の装丁そのままの本を
手にして欲しいと願っています。

9-1 函やカバーはつけたままで書架に出しています。

9-2 帯はその本の内容を的確に紹介している場合に限りつけておきます。何賞受賞等といった類の帯は外しま
す。本に対する余計な先入観を与えないためです。

9-3 本にブッカーを掛けない。
 まず、ブッカーを掛けると手に取った感触がなんとも不快です。次に、年月を経るとブッカーの収縮と劣化で
表紙が波を打つ、粘着剤が露出した所に埃が付着して黒ずむ、表紙と見返しがくっつく、ブッカーに裂け目が生
じる、しまいには表面全体にできた細かい擦り傷で薄汚れる等々で廃棄せざるを得なくなります。  

 同じ図書館の本でも大人対象のものにはブッカーを掛けていません。子どもの本は汚れる・傷むということ
で、いつのまにやらブッカーを掛けるのが当たり前になってしまいました。手垢等ならエタノールで拭き取れば
簡単に落ちます。また、図書館にずっと備えて置くべき本で頻繁に読まれるものなら、予備の本を購入してお
き、傷んだら取り替えれば済む話です。ブッカーを掛けることは経費と人手と時間の浪費です。ブッカーを掛け
られた本は破棄された時、紙のリサイクルにも乗りにくいはずです。ブッカーを掛けられた本は最早本ではなく
ゴミだ、と言い切る人が古書店関係者に多くいます。そんな扱いしか受けない状態の本を手にする子どもが増
え、ブッカーを掛けられた本に違和感を持たない大人になっていくことに憂いを覚えます。

9-4 背表紙に分類ラベルや識別用シールの類いは付けない。
 現在、子ども図書館は直接書架から本を手にとって選べるのが常識です。この方式では本の背表紙に分類ラベ
ルは不要です。子どもが本を捜すのに分類ラベルを頼りにすることは先ずありません。背表紙のラベルで著者名
や出版社名などが見えなくなる事こそ問題です。子ども図書館では柔軟な本の配置換えが必要であり、本を置く
場所を特定してしまう分類ラベルや識別用シール等は具合の悪いものです。
 子ども図書館を与る者は配架してある本についてラベル無しでも対応できるようでなくてはなりません。

9-5 本を綺麗に保つこと。
 当館では、本のカバーの破れは直ちに補修、表紙の汚れはエタノールで清拭するといった具合に、常に本を綺
麗かつ衛生的に保つように心掛けています。近頃の子どもは妙にきれい好きな所があり、カバーの傷みや手垢の
汚れが目立ってきた本には手を出しません。しかし、古くなって表紙に擦れがあっても手入れが行き届いた本な
ら、子どもは読んでくれるものです。杉の子図書館では20〜30年前の古びた本でも結構読まれています。本が丁
寧に補修、手入れされていると、子どもも本の扱いに気を付けるようです。私共が注意しなくとも本の乱暴な扱
いはほとんど見られません。

 古い本といえば残念に思っていることがあります。概して、かつての本は漢字が多く、読めない漢字が多いと
いうだけで古い本が敬遠されがちです。ルビさえ振ってあったら今の子どもにも読める素敵な本が沢山あるのに
と嘆きたくなります。

 古びるということでは、黒以外のインクで印刷された背表紙のタイトルが色褪せて、判読できなくなるので
困っています。これは赤や青、黄といった色の地に白抜きのタイトルの本で顕著です。例えば、あかね書房の
「科学のアルバム」、学研の「ヘンリーくんシリーズ」等はその最たるもの。タイトルは黒で印刷するか、さも
なければ別の改善・工夫の努力を出版社に望むところです。私共では、時間と手間が掛かりますが、いずれ背表
紙のタイトルの薄れた本にはグラシン紙を掛け、タイトルを打ったラベルを貼るなりしたいと思っています。

 10. 子どもと本の橋渡しについて。
 読書は、本と出会うことから始まります。それは本屋の店頭であったり、図書館であったり、友達の家であっ
たりするでしょう。いずれにしろ、本との出会いは自然な形で訪れるものであって欲しいと願っています。又、
読書はそれを希求する者のためのものであり、読む気の無い者にまで強いるのはおかしいと思います。全ての子
どもに読書をする機会を(子ども図書館の充実を)というなら解りますが、全ての子どもに読書をさせねばと言
われると何か変だなと思ってしまいます。

10-1 子どもに個々の本を具体的に薦めることはせず、自分で本を選ぶようにさせています。自分で書架から本
を探すことで、実際には読まなくとも様々な本を知り、本を通して世界が広がっていきます。手渡された本しか
知らないのとでは大変な違いです。自分に不向きな本を借りていって読むこともあるでしょう。能力以上の本で
投げ出してしまうケース(内容の難度よりルビのない漢字が障害になっている)もあるでしょう。回り道のよう
に思われるかも知れませんが、子どもの読書においてはこうした過程を経験していくことが大切です。

10-2 本を読んでやることとお話をしてやること。
 当館では本を読んでやるとか、お話をしてやるとかはしていません。というと誤解を招きそうなので説明して
おきます。子どもに本を読んでやることやお話をしてやるのは大事だと私共は考えています。ただ、それは親を
始めとする家族、幼稚園・保育園・学校の先生等、子どもの日常生活に関わっている者がやることで、月一回と
か週一回ではなく毎日のようになされるのでなくては意味がありません。充分な回数でもないのに、私共が本を
読んでやることになれば、何でも人任せの風潮の世の中、それで事足れりとして親が自分の子どもに本を読んで
やらなくなる恐れがあります。これでは本末転倒です。誰の子でもない、自分の子は自分が面倒をみるのが基本
です。言葉の習得は子どもの一生に深く関わるもので、親には子どもに本を読んでやることをもっと真剣に受け
止めて欲しいものです。そんな考えのもとに、私共ではやらないことにしています。


 本を読んでやったり、お話をしてやることの目的について私共がどう捉えているか述べてみましょう。一般的
に本を読んでやるのもお話をしてやるのも子どもを本好きにしたい、子どもに本を読むようになって貰いたいと
の思いでなされているようですが、うなずけません。

 それでは、10歳位までの子どもについて触れてみます。この年代の子どもは、耳から入ってくる言葉を通して
母国語としての日本語を習得する大切な時期にあります。子どもの周りにいる大人、特に親から毎日話掛けられ
たり、お話や、本を読んで貰ったりすることで自然に言葉を習得していきます。幼児期の子どもにお話をした
り、本を読んでやるのは、言葉の習得を促す或いは助けるためです。言葉の習得では繰り返しが重要で、これは
家庭の中でしかできません。将来の読書に繋がる下地を作ることにはなりますが、子どもを本好きにさせようと
の目的でやるのでないことをよく心得るべきでしょう。個人差はあるものの10歳位になると、子どもの方からも
ういいと言い出すのでそれが止めどきです。幼児期に折角読んでやったのに大きくなったら本から離れてしまっ
たと嘆く親がいます。母国語をしっかり身に付けられれば目的は達せられており、長じて本人が本を読もうと
思った時、それが成人してからであれ読書は出来る訳で憂うる必要はないと思います。子ども時代に素敵な本を
知らず終わるのは残念ですが、子ども自身が読もうとしないのですから致し方のないことでしょう。何がなんで
も読ませなくてはというものでもありません。

 次に、10歳以上の子どもにお話や本を読んでやることの意味について考えてみます。かなり前から、これは子
どもを読書に導く有力な手段として盛んに推奨され、全国に普及しています。しかし、私共では子どもが本に手
を伸ばすことに果たして繋がるのだろうかと懐疑的です。受け身一方で済むところのお話や本を読んで貰うこと
と、自分で活字を追って本を読むことは全く異質なものだからです。単に子どもの楽しみのためにというなら納
得もできますが、子どもの目を本に向かせようとの目的での最近の読書運動の傾向には賛同できかねます。子ど
もの本離れは私の中学生の頃即ち40年位前から既に云われていました。読み聞かせやお話会が野火のように広
まって久しいにも拘わらず成果がそれ程上がっていない、ということがこの“読書の本質”を物語っている気が
します。子どもと本を結び付けるためと言う一方で、自己実現のためにやるとか、果ては謝礼が出るので時間的
に割のいいアルバイトになるなどとの話を聞くに及んでは、何をかいわんやです。大人でもお話や本の朗読を聞
くのは楽しいし、子どもも概して喜びます。ですが、これは小さい時に親からやって貰うのとは違い、映画や演
劇と同じ感覚で楽しんでいるようにみえます。やる者の技量も要求されるというものです。10歳位までの子ども
に親が普段の口調でやってやるのと同列には語れません。

 11. ブックリストと本の入手の方法。
 当館に来ている子どもは書架から直接本を選べるのでブックリストは不要です。親たちについても同じことが
言えますが、一部の親は書架に出してあるブックリストを覗いているようです。当館に来られない遠隔地の人か
ら、子どもに何を読ませたらよいかという質問を受けることがあり、こうした場合はブックリストを紹介してい
ます。1冊或いは数冊の児童書を紹介するといったことはしていません。理由は、私共が相手の子どもの能力や
性格、好みなど全く判らないのに加え、紹介した本を読んでしまえば再び何を子どもに読ませたらよか判らない
という同じ状態の繰り返しになるからです。

 ブックリストには概ね200〜300冊の本が収載されており、表紙の写真や内容の簡単な説明があるので子どもと
相談しながら本が選べます。本屋の無い地域の人でも書名や著者、出版社が判れば、雑誌を置いている最寄りの
雑貨屋といった店からも、注文すれば本を取り寄せて貰えます。私共は村の中にある薬店を通して本を入手して
います。本が届くには早くて1ケ月、うっかりすると2ケ月位掛かりますが手数料や送料は掛かりません。急ぐの
であれば、クロネコヤマトのブックサービスに注文すれば手数料が380円掛かりますが、大体1週間で手元に届き
ます。ブックリストは本を選び、入手する上で有力な手段と言えます。杉の子図書館では、東京の調布市立図書
館発行の児童図書館員により編集されたブックリスト「この本よんで!」と「小学生にすすめる本}(各300
円)を常備し、実費で頒けています。

 12. 「絵本の与え方」について。
 小さい子どものいる親から、絵本の与え方について時々訊かれます。館内の手引き書コーナーを利用するにも
幾許かの予備知識は必要で、子どもの本に不案内な人が活用するのは無理なようです。当館では、そんな人に福
音館発行の無料の小冊子「絵本の与え方」を渡しています。これは松居直氏がお母さん方のために書かれたもの
です。私共がお母さん方に幾ら懇切丁寧に話してもその場限りで、あらかたは忘れられてしまうのに引き替え、
この小冊子は家で何度でも読み返しながら利用できます。「色刷りで分かりやすく、重宝している」とお母さん
方から感謝されています。

 13. 本の紛失・盗難など。
 本の貸し出し期間は原則2週間です。2週間過ぎて返却されなくても督促はしません。本を借りたのが子どもの
場合、本の返却の督促を親に対してやらない方針です。督促したからといって必ずしも返されるものでもない
し、督促されると、往々にして子どもが図書館から本を借りることを、さらには図書館に出入りすることさえも
禁じる親がいるためです。こうなると私共が図書館をやっている意義を失い兼ねません。子どものプライバシー
の問題もあります。返って来ない本は子どもに永久貸与していると思うことにしています。幸いこうしたことは
少なく、年に数冊程度、概ね順調に返却されています。長く返却されず戻らないかなと思った本でも、半年以
上、時には2年も経ってひょっこり戻されていたこともありました。開設して間もない頃、3人の中学生に、1人
には口頭で、2人には手紙(封書)で本の返却を督促したことがあります。勿論、親には話さず、借りた子ども
本人に対してです。口頭で督促したもののみ返却されました。手紙を送った一人については、後日母親が私共と
の雑談の中で、「子ども部屋の本箱に“杉の子”の本が長い間あるのに気付いているが、返すように子どもに言
い出せないでいる」と話してくれました。私共が子どもに督促しているのを親は知らない訳で、「そのままにし
ておいて下さい」としか応えようがありませんでした。中学生はその本をずっと持っていたかったのだと思いま
す。

 極く希にですが、子どもによる本の盗難もあります。大した冊数ではありません。それよりは大人による盗
難、それも子どもの本や子どもの読書について関心のある大人によると判断される盗難があり、愕然としていま
す。子どもの読書に関わる活動グループの機関紙とか東京子ども図書館の「こどもとしょかん」などが盗難に遭
い、バックナンバーに穴が空いてしまうため現在はこうした資料は図書館に出さない処置をとりました。

 14. 子どもの読書履歴を把握することはしない。
 子どもの読書の履歴を把握したいと思う動機は様々あるようです。いかなる興味・関心からであろうと、子ど
もの読書履歴の把握はやってはいけないというのが私共の見解です。私自身、自分の読書履歴を他人に知られた
くありません。たとえ子ども時代のそれであってもです。子どもの名前を伏せて読書履歴を分析し、雑誌や機関
誌に発表している人たちがいます。子どもの名前を伏せねばならないことが示すように、子どもの読書履歴を出
す事は本来許されぬことと、発表者自身認めているようなものです。そうした記録を保管しておく事自体が問題
で、子どもの人権侵害になります。万が一、外部に記録が流れた場合の責任はとれるのでしょうか。本人或いは
子どもの保護者が了承したとしても、読書履歴や読書傾向が発表されることの意味の何たるかを明確に了解でき
ている者がかりとは限らず問題が残ります。

 15. 子どもに本を読んだ後の感想を聞いたり、感想文を書かせることはしていません。本人が読んで楽し
かったらそれでよく、読みっぱなしでよいのではと思います。

 16. 子どもに本を少しでも多く読んで貰おうとの目的で、読んだ冊数を競わせることはやっていません。こ
ういうイベントは子どもが喜んで参加すると企画する側では言いますが、読んだ冊数の競争は読書と馴染むもの
ではありません。

 17. 子ども図書館は<本のある遊び場>ではありません。折り紙やかるた、ブロックを館内に置いてありま
すが、この程度で丁度よいようです。子どもの遊びの要素を多くすると、本を目当てにやって来る子どもの邪魔
になりますし、子どもは遊びに引き込まれてしまいます。本来本と親しむ場であるべき子ども図書館が騒々しく
収拾がつかなくなります。
 家でおやつを作る積もりなのか、お母さんコーナーからお菓子の作り方を見付けて借りていく女の子がいま
す。図書館がこんな風に利用されると嬉しくなります。何々遊びの日だと子どもが沢山やって来るとか、本には
目もくれず次々と新しい遊びを要求する子どもがいる話を聞くと首を傾げたくなります。

 長くなりました。御地には様々のタイプの図書館や子ども文庫があると聞いています。それらを一つ一つ見学
し、受講生の皆さんには子ども図書館についての見聞を広めて欲しいと願っています。(2003.8.20)


杉の子図書館規約

第一条 名称
    この子ども図書館の名称は、杉の子図書館(以下、当館)という。

第二条 拠点
    当館は、青森県平川市碇ケ関村阿原17-5に独立して存在する専用館をその拠点とする。

第三条 目的
    (1)当館は、子どもが読書を通じて、個性を伸ばし、想像力を養い、豊かな言葉を身につけ、健やか
で安定した心を育んでくれることを願う。この願いのもと、いつでも、自由に本に親しめる場を子どもに提供す
ることを主たる目的とする。
    (2)子どもが本に親しむためには、保護者を初め、周囲の大人の理解は欠かせない。その必要から、
保護者や子どもの読書に関わる人々に、児童書や子どもの読書の問題についての研鑽、学びの場を提供する。 

第四条 活動内容
    当館は、第三条の目的を達成するために以下の活動を行う。
    (1)図書室を乳幼児・小学生・中学生・高校生に開放する。
    (2)文献文庫(研究資料室)を希望者に開放する。
    (3)本に対する子どもの多様なニーズに応えられるよう、広範な分野に渡る良質な児童書の収集・充
実に努める。
    (4)児童書や子どもの読書の問題について理解を深める一助となる文献・資料、並びに明治期以降に
発行された優れた児童書の収集・充実に努める。
    (5)当館の蔵書を利用者の閲覧に供し、かつ貸し出しを行う。
    (6)図書館だより「杉の子タイムス」を定期的に発行・配布する。
    (7)子どもの読書に関わる相談に応ずる。
    (8)その他、この目的に添う活動並びに事業を適宜行う。

第五条 組織と運営
    当館は、代表田口昭子とスタッフ田口康雄の2名によって組織・運営される。
    代表田口昭子は図書館運営の全般並びに会計の監査を担当する。田口康雄は資料収集、図書館だより
「杉の子タイムス」の編集並びに経理を担当する。

第六条 運営費
    当館の運営費は年間予算概ね  万円とし、図書購入費・定期購読誌費・諸経費に充てる。特別な事業
を実施する場合は、別途に予算を検討する。

第七条 会計年度
    当館の会計年度は、毎年1月1日に始まり、12月31日に終わる。

第八条 運営上の基本方針
    (1)開館日と休館日
       開館日は、日・月・火・水・木曜日で、午前8時30分から日没までとする。
       休館日は、金・土曜日とする。
    (2)本の閲覧及び貸し出しは無料とする。
    (3)一回の本の貸し出し期間は二週間とする。
    (4)一回の本の貸し出し冊数に制限は設けない。
    (5)会員制は採らず、誰にでも当館を開放する。
    (6)利用者の年齢制限は設けない。
    (7)就学前の子どもであっても、保護者の同伴なくして利用できるものとする。
    (8)文献文庫の資料については予約閲覧のみとし、貸し出しは行わない。

第九条 この規約の施行上の細則は、代表が別に定める。又、この規約の改廃は必要に応じて代表が行う。

第十条 この規約は、1998年4月1日より施行する。

    付則1 この規約は、2003年3月31日一部改正した。
    付則2 この規約は、2006年1月1日に一部改正した。

                        杉の子図書館
                        代表 田口昭子